指鹿為馬
話は秦の始皇帝亡き後、二世皇帝の時のことだ。宦官の趙高が皇帝の地位を簒奪しようと野心を燃やしていた。だが、大臣たちの何人が自分を支持しているかわからない。そこで、ある作戦を思いついた。
趙高は朝廷に参内する時、鹿を一頭連れてきて、ニタニタ笑いながら、皇帝に言った。
「陛下に一頭の馬を献上いたします。どうぞお収めください!」
皇帝はこれを聞いて、大笑いして立ち上がり、それから鹿を指さして言った。
「これが馬だって、明らかに鹿じゃないか!」
趙高は慌てることなく言った。
「陛下、よくご覧ください。これは間違いなく馬でございます。信じられないとおっしゃるのなら、大臣たちにお尋ねください。」
それを聞いて大臣たちはがやがやと騒ぎ始めたが、数人の正直者たちの一人が言った。
「これが馬だなんてことはあり得ません。鹿以外の何物でもありません。」
しかし、肝の小さい大臣は趙高の恐ろしい視線を浴びて怖くなり、趙高に合わせて言った。
「これはよい馬でございます。」
その後、趙高に「馬ではありません」と言った正直者たちはみな趙高によって殺害された。
中国の四字熟語「指鹿為馬」。訓読みすれば、「鹿を指して馬と為す」となる。鹿を指さして、これは馬だと言うのだ。
「裸の王様」はあちこちにいる。どこかのワンマン社長やどこかの知事やどこかの国家最高指導者たちだ。
彼が黒を白と言った時、「いいえ、それは黒です」と言えば、大変なことになるから、しかたなく、「おっしゃる通りです。間違いなく白です」と言わざるを得ない。そんな馬鹿なことがあるのかと思うが、現実にはたくさんあるのだ。
日本国内を見れば、残業時間を申告する際、上から「君は残業時間が80時間だ。」と言われ、実際は多くても、「その通りです」と言って、嘘の申告をさせられる。真実を言えば、首を切られる可能性があるから仕方ない。
海外を見れば、U国でもK国でも、黒を白と、または、犯罪を犯罪ではないという「裸の王様」がいて、仮に真実を言えば、処刑、あるいは、処罰されている。