日々是好日 - Seize the Day

煩悩だらけで無力で、罪深い人間の戯言です。

詩人とは?

 高三の春、萩原朔太郎に心酔したぼくは大学の文学部に進学することを決めた。何になるかは何も考えず、ただ文学部に入り、詩人になろうということだけ決めた。


 その年の夏休み前、友人と東京へ行き、大学進学のために、予備校に入る手続きをしに行った。新宿駅を降りておどろいた。まったくの田舎者であるぼくたちは迷子になりそうになった。自分のいる場所が1階なのか2階なのか、はたまた、地上なのか地下なのか、まったくわからなくなった。見上げれば曇った白い空が広がり、空気が汚れていると感じた。こんなところ、一時期ならともかく、長く住むところではないなと感じた。東京人には失礼な感想を持った。


 東京で泊まるところは決まった。東京に住んでいる兄の知り合いが帰省のため、一ヶ月だけアパートの部屋を空けるということで、その間利用させてもらうことになった。7月末、とうとう、ぼくは1ヶ月間だけではあるが、初めて東京に住むことになった。池袋からバスに乗って数分のところだった。


 バスを降りて、地図を頼りに歩いた。その時、目の前を歩く20代前半の男性がいた。もしかしたら、同じアパートに行くのではないかと直感的に感じた。案の定、同じアパートに入った。僕は自己紹介し事情を説明した。相手は木村泰三と名乗った。早稲田に入るために三浪しているという鹿児島人だった。それから、彼の部屋にお邪魔したら、部屋は三畳一間で、足の踏み場もないほどゴミでちらかっていた。少し話をしていると、何と彼は詩人の卵で自費出版で詩集を出したという。部屋の隅に詩集が山積みにしてあった。売れないというので、ぼくは買った。


 それから毎日のように会って話をした。彼は本来予備校に通う予備校生だが、親からの仕送りもストップし、昼も夜もバイトで忙しかった。夜のバイトでは警備員をしていて、泥棒が入って、自分が疑われたとか言って悩んでいるという話をしてくれたりした。親の話も聞いた。


 そんな彼がぼくに行った言葉で今も忘れられない言葉がある。
「君は詩人になりたいというが、本当の詩人というのは天才だけだよ。大学に行って、詩を勉強したからと言って、詩人になれるわけないよ。」


 これはぼくの胸に深く突き刺さった。だが、以後、諦めたわけでもなく、ただ、彼の言葉を心の中に残しつつ、奮闘し続けた。ただ、この言葉がぼくの人生に与えた影響は少なくない。

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