遠きに有りて思うもの
西に白い富士を眺めながら思った。登りたいと思いながらも、いろいろな意味で遠い。
故郷に帰ったが、帰らないほうがいいと思った。
高嶺の花のような人も遠くで見ているだけのほうがいい。パリやニューヨークに行ってみたいと思っても遠いところにあって恋しく思うのがいい。
恋しい人に会いたいと思っても遠いところにいて、思うだけがいい。何もかも遠きにありて思うものだ。
そう思って生きてきたが、行きたい所も、会いたい人もない。欲しいものもなくなってきた。
欲しいものも会いたい人も何もかもただ遠きにありて、ただ時々思う。それだけでいい。