うかうか
「後はうかうかと演じることです。」
内田康夫の小説「天河伝説殺人事件」の中に出て来た台詞だ。意味は「虚心坦懐と言うような意味だ」とあった。能を演じるときに余分なことを考えないということだろうか。
この「うかうか」ということば、普通は、のんびりしすぎて、失敗するような時に使うことばだ。「同業者も増えてきたので、うかうかしていられない」とか「うかうかと口車に乗せられてしまった」というように使うことば。「気が緩んで注意が行き届かない。うっかりに近いことば。しっかりとした心構えや目的もなくぼんやりと時を過ごすさま」とある。
だが、能の世界では、虚心坦懐、つまり、何のわだかまりもない素直な心で。物事にのぞむこと。「虚心坦懐に話し合う」のように使われることばだ。
今、ウィルス禍の中でこそ、このうかうかと生きることが必要なように思えた。
外出自粛の中で、ストレスがたまり、鬱になり、自殺願望まで、あると言う人が増えていると聞いて、ふと思ったのが、この「うかうか」だ。
「生き馬の目を抜く」ような、油断のならない社会で生きている人たちが大勢いたと思うが、今、少し能の世界で言うような「うかうか」とした生き方をしてみてはどうだろうかと思った。
公園の中の池にいる亀を見ていると、まさにうかうかと生きているように見える。あくせくすることはない。十分慎重に、そして、心穏やかにうかうかと生きていこうと思った。