日々是好日 - Seize the Day

煩悩だらけで無力で、罪深い人間の戯言です。

初日の出!

 初日の出を拝みに横浜大桟橋まで行った。朝4時56分のバスに乗るため、結局、母もぼくも徹夜した。徹夜したと言っても、たいしたことではない。母はいつも朝6時ごろ寝て、昼過ぎに目覚めるのだから。
 朝4時45分ごろはまだ当然暗く寒かった。路上を歩く人は数人。バス停で数分待つとバスはやってきた。ぼくたちが乗った後、もう一人後ろから走って乗ってきた。若い男性だ。次のバス停でも5人ほど。若い女性と中年の夫婦。それに老年の夫婦。それから先のバス停ごとに数人ずつ乗ってきて、駅に着くころには20人を超していた。若い女性が結構多かった。年寄はあまり多くない。
 駅から、横浜に向かう地下鉄に乗る。横浜の関内駅についた時、時計の針は6時を少し回っていた。トイレなどを済ませ、大桟橋まで歩いていく。途中、同じ方向へ歩く人がどんどん増えて行く。みな同じなのだ。大桟橋の入り口に到着して驚いた、警察も出て交通整理をしている。「駐車場は満車だから、車で来られた方はほかの駐車場をお探しください」と言っている。
 横浜大桟橋は地下1階、地上2階建てで、長さ約430m、最高高さ約15m、幅約70mという巨大なものだ。その岸壁にはいつも巨大旅客船ASUKAⅡが横付けされている。ASUKAⅡは千を超える客室数があり、テレビでお何度か紹介されている。内田康夫の「浅見光彦シリーズ」で二度登場する。
 この桟橋の入り口には、三つの道がある。真ん中には待合室に通じる広い通路、その左右には屋根の部分に上れる板の通路がある。太陽が昇る東側、つまり右側の通路を上る人が大勢いて、それについて行くと、海を臨む手すりにはものすごい数の人が鈴なりに連なっていて、海を見るには背伸びしなければならないほどだった。後ろを見ると、最高部に行ける板の階段があって、そこにも大勢の人が座っていた。まだ余裕があるなと思って、母を連れて、数段上って腰を下ろした。だいぶ見晴らしがよくなり、座った状態でも、初日の出が拝める。
 それからが大変だった。階段に座ったのが6時20分。ネットで調べたところ、横浜における日の出の時間は6時51分だ。まだ30分はある。寒さに凍えないよう対策はしてきていたが、気象庁によれば、今朝は3度くらいだという。結構冷えてくる。周囲を見渡すと、若い男女が多い。高校生ぐらいの女の子二人組がちょうど後ろにいて、ずっと話していた。「寒くて手足の感覚がなくなってきた」とか。前に座っていた若い男女は二人で
自撮りをしてたりしながら、二人だけの時間を楽しんでいる様子だった。前の方では若い男女が数人で騒いでいる、どうも酔っているようだ。


 それぞれにそれぞれの楽しみ方をしながら、日が昇るまでの時間を楽しんでいた。カップラーメンをすすっている若者もいた。それも温かくていいなと思った。6時45分ごろから、対面に見える倉庫らしき建物の上の空が少し赤みを帯びてきた。雲があるらしく、その雲の波型の上部が少し赤くなってきた。それが少し輝きを持ち出すと、周囲がざわつき始めた。「あれじゃないか?」「きっとあれだ!」と。それからの時間が長かった。朝、出かける支度をしている時、後5分あると思うと、その5分はあっという間に過ぎるが、ここで待つ5分はひどく長く感じる。
 さらに数分過ぎたころには赤みを帯びた地平線の上の空とは明らかに異なる黄色い光を輝かせ始めた。誰もがいよいよだと思ったようで、ざわざわしだした。だが、50分を過ぎても丸い太陽はまったく姿を見せない。雲の向こうに隠れたようだ。そして55分ごろ、はっきりと違う輝きがちらりを顔を覗かせた。「これだ!」と思ったら、後ろの女の子が「あの丸っこいのがそうよ!」そうだ!あれだ、だが、恥じらっているようになかなか顔を見せない。
 このころ、ぼくはそろそろ寒さのせいもあって尿意を催し始めていた。これ以上待つと大変だと思いながら、あと少しで日が昇ると思い我慢していた。母も同じようだ。こんな時、ほんの数分の過ぎるのが本当に待ち遠しいし、いらいらする。丸い輝く太陽を見たら、さっさとトイレに行こうと決めた。そして、58分ごろだと思う。まばゆい光が輝いたと思ったら、丸い輝きは黒い雲ときっぱりと別れを告げた。
 あちこちから拍手も沸き上がった。海に囲まれた横浜大桟橋の上で、眩しい光に包まれて、数えきれないほどの人たちがいっしょに喜びあっている。みんな大騒ぎだ。この瞬間、みんなが余韻に親しんでいる間を逃さず、ぼくは母の手を取り、人々の間を縫うようにして、階段を下り、通路を戻り、入り口の真ん中の通路を進んで、待合室に入り、人に場所を聞いたら、右が男子、左が女子だという。ぼくはさっさとトイレに入り、用を足してて出てきた時、母はなかなか出てこない。すでに男女どちらのトイレも大行列ができていた。丸い太陽を確認してすぐに戻ってきたのが正解だった。
 帰りの道もすごかった。明るい朝の陽ざしを浴びて、長蛇の列が海から離れて陸地へ戻っていく。だが、その列はとにかく陽気だ。みんな笑っている。元旦の日の出を眺められたことで、今年一年が明るい年になるような気がするのだろうか。初日の出に顔を赤らめているのだろうか。みんな明るい顔だ。ぼく自身、初日の出を拝めた喜びもあるが、それより、この大勢の人たちが、特に若い人たちがこうして初日の出をいっしょに喜ぶという雰囲気にぼくは酔ってしまった。

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