日々是好日

煩悩だらけで無力で、罪深い人間の戯言です。

デラシネ

 膝の痛みがひどくなって以来、出歩くことが少なくなった。母を歩かせるために週末にはよく散歩に行っていたのに、その母が転倒してから、ますます出歩かなくなった。さらに自分が転倒して、腰を打ち、休日はできるだけ休むようにしている。
 結局、日々仕事に出て、仕事して、まっすぐ帰るだけになっている。外へあまり出なくなって思うことは、まだ知らない世界を見てみたい、見たことのない花や風景を見てみたいという気持ちが今もあるということだ。 
 考えて見れば、十代の時、故郷を離れて、それから、一カ所に6年以上住んだことがない。短い期間で3ヶ月。およそ20数回は引っ越ししている。若いとき、先輩から聞いた「デラシネ」ということばが、いまも、心に残っている。ぼくは根無し草なのだ。初めて故郷を出た時は涙も出たが、その後は、新しい土地に移るたびに、新しい環境、新しい風景を見られると思うと、わくわくするようになった。
 そもそもぼくの根(ふるさと)はどこかといわれても、何市なのかわからない。出生地の地名はわかっているが、それが二つの市にまたがっていて、どちらかわからないのだ。今、ふるさとに帰りたいかと言われても、帰りたいとは思わない。どこに住みたいとかいう気持ちもなければ、ここを離れたくないという気持ちもない。ただ風に流されて移り住んできただけだ。
 そうして、今住んでいる場所には、なぜか、もう10年住んでいる。こだわりのないこの心が、ここでもいいじゃないかという気持ちになっている。今までは別に好きで引っ越してきたわけではないが、たまたま引っ越してきた。そして、ここが終の棲家になるのかもしれない。それもいい。
 ただ、知らない世界を見てみたい、知らない花を見てみたいという気持ちはまだある。腰が治ったら、できるだけ、いろいろ歩き回りたい。せめて、一日に1万歩以上は歩きたいと思っている。はかない希望にならないことを願っている。