日々是好日 - Seize the Day

煩悩だらけで無力で、罪深い人間の戯言です。

知識欲

 かつて知識欲が旺盛だったころ、ある作家を読み始めたら、その人の作品をすべて読まずにはいられなかった。その人のすべてを知りたいと思ったからだ。知識欲はあらゆる方面に向かった。詩や小説だけでなく、歴史についてもけっこう深入りして読んでいた。

 特に学生のころは詩や小説に夢中になった。詩では萩原朔太郎、中原中也、高村光太郎、宮沢賢治等、小説では、夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介、太宰治等。外国の作家で言えば、オー・ヘンリー、エドガー・ライス・バロウズ、フレドリック・ブラウン、アイザック・アシモフ等々。


 それが、次第に趣味も変わり、最近まで、老子や孟子、それに唐詩選などの古典を読み直したり、魯迅や朱自清という中国の作家を読んだりしていた。一方、軽いものとして、サスペンス小説も東野圭吾、大沢在昌、内田康夫、西村京太郎等の作品をほとんど読んできた。
 ところが、ここ数年、あまり本を読みたいと思わなくなってきた。買う冊数は激減した。いや、買っても読まないまま放置することが増えてきた。しかも、持っている本をブックオフで少しずつ処分してきた。その結果、本の冊数が少しずつ少なくなってきた。

 軍縮ならぬ書縮。それでも本は多い。ただ積み上げられたままの本たちを前にして、ふと思った。昔、夢中になって読んだ作家はいったい誰だったろうか。思い出そうとして思い出せない作家が多い。それでも思い出せたのが、上記の作家たちだ。

 いったいこの知識欲の減退は何だろうと思う。そう言えば、物欲も食欲も減退している。あれが欲しい、あれが食べたいという気持ちも薄くなった。その他の欲求も言わずもがなで、どんどん減っている。望んだことだったが、何故かさびしい。


 さらに、考えてみると、人であっても、物であっても、失いたくないという気持ちが少ない。以前は少しはあったが、それがいっそう弱くなった。例えば、何かが壊れたら、そんなものさと思う。何かを失っても別に構わないと思う。


 欲求のなかにはいろいろあるが、弱まったことで、心が軽くなるものもある。だが、残念なのは、一番強かったはずの知識欲がどんどん弱くなっていることだ。弱まったとはいえ、今もある。なぜなら、これだけは失いたくない。知識欲こそ、よりよく生きる上で最も必要なものだと思うからだ。

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