忘筌
忘筌(ぼうせん)という言葉がある。
筌とは川で魚をとらえるための道具である。この漢字単独では「うけ」と読む。
筌を忘れる。つまり魚を取るための道具である筌を忘れるということだが、世間一般には道具を大事にするあまり、目的を忘れる人がいる。
例えば、もうすぐ参院選挙があるが、政権を取った後、何をするか、これが一番大きな目的であるはずだ。だが、野党の人たちは政権を取った後、いったいどんな政治ができるのか疑問が多い。政権を取るのはただの手段に過ぎないはずだ。だが、野党の人たちの声を聴いていると、まるで政権を取ることが目的のように見える。
大学受験生も同じだ。大学に入ることは単に手段にすぎない。入ってから何をするかが大事な目的のはずだ。大学院になると、これがはっきりする。大学院に入ることは完全に手段だ。そこで何を研究するかが大事なのだ。大学や大学院に入ることだけを目標にする高校や予備校は、大きな大間違いをしている。いったい大学や大学院に入って何をしたいか、そこが本当に大切なのだ。
学生ばかりではない。多くの人がそうした罠に陥っている。リラックスを目的にゲームを始めた人が、いつの間にかゲームで勝利することが目的のようになって、結果、徹夜でゲームをしたりして、仕事も何もできなくなる。いつもゲームのことが気になってしまう人を見るとかわいそうになる。
手段が目的になってしまい、何のためにそうしていたのかを忘れる人が多い今の世の中、この忘筌(ぼうせん)は大切な言葉だと思う。