日々是好日 - Seize the Day

煩悩だらけで無力で、罪深い人間の戯言です。

転校

 中学生三年生の時、福岡県から千葉県に転校した。
 ある日、体育の授業の時、体育の先生に頼まれて、何かの用具を取りに体育用具室に行った。そこへ知らない先生が入ってきて、ぼくに向かって、「あにしてんだ?」と言ったのだが、意味がわからない。ぼくは友達に、「先生は何て言ったんだ?」と聞いたら、友達が通訳して、「『何をしているのか?』と聞いてるんだと教えてくれた。
 クラスの生徒たちが自分をさして言う第一人称にも驚いた。男の子は自分のことを「おらほ」と言い、女の子は「おれ」と言っていた。何だか、異国に来たような気がして、なかなかなじめなかった。
 一度、「Xからの手紙」というのをやった。クラスのみんなが、クラスメートに宛てて、匿名でメッセージを送るのだ。ぼくに宛てて書かれた手紙には「暗い!」「何を考えているのかわからない」と言うメッセージがほとんどだった。
 友達は一人いた。例の体育用具室で通訳をしてくれた友達だ。同郷でぼくより少し早く転校してきた生徒だ。ぼくは彼以外の生徒とはほとんど話をしなかった。だが、彼はぼくと性格が合わなかった。ひどくゆっくり話すのだ。ちょうど落語の「長短」のようなもので、「おい、早くしゃべろよ」「さっさとしてくれよ」とぼくは彼に不満を言っていた。なぜだろうか、彼と話すのも嫌になり、結局ぼくは誰とも話さなくなった。
 何だか憂鬱でたまらなかった。ある日のこと、ぼくが一人で廊下を歩いているとき、みんなから、番長として恐れられていた男子生徒が、大勢の部下を引き連れて向こうからやって来た。とがっていたぼくは彼にわざとだったか自然だったかはっきり覚えていないが、互いの肩がぶつかった。その瞬間、ぼくは振り返って相手をにらんだ。もちろん、覚悟していた。喧嘩になって殴り合う気でいたのだ。ところが、番長はぼくに笑顔で言った。「喧嘩しちゃだめだ。」肩透かしを食らわされたようで驚いた。
 実を言うと、ぼくは小学生の時からよくケンカをしていたのだが、この時を最後にいっさい喧嘩をしなくなった。

×

非ログインユーザーとして返信する